女性ホルモンと歯周病の関係
はじめまして
歯周病専門医の森岡優美です。
今回は「女性ホルモンと歯周病の関係」についてお話したいと思います。女性ホルモンと聞いてどのような想像をしますでしょうか?
女性のライフステージにおいて、女性ホルモンが大きく影響する場合は大きく3つあります。
1つ目は月経周期、2つ目は妊娠期、3つ目は更年期です。
そのほかにも、低用量ピル、不妊治療などで女性ホルモン製剤を治療で使用している場合も影響があります。
多くの女性は初潮を迎えてから、更年期が終了するまではかなりの年月があるかと思います。その期間において女性ホルモンの影響を少なからず受けていることになります。
女性ホルモンと歯周病が関係することをご存じの方は少ないのではないでしょうか。
実は、女性ホルモンは女性特有の歯周病のリスクとなります。
今回は第1弾として、月経周期の歯周病への影響についてお話しようと思います。
まず、女性ホルモンとはどのようなものでしょうか。女性ホルモンには「エストロゲン〈卵胞ホルモン〉」と「プロゲステロン〈黄体ホルモン〉」の2種類があります。月経中の女性の心と身体の状態は
およそ1か月の周期(平均28日)で変化します。卵胞期と黄体期に分かれ、その間に排卵があります。
次に、女性ホルモンと歯周病の関係についてお話していきましょう。
その前に、歯周病についてですが、一部の歯肉炎を除きほとんどの歯周病は歯周病原細菌が原因です。しかし、歯周病はそれ以外の様々な要因が複雑に影響しています。それを、歯周病のリスク因子といいます。
図引用:鴨井久一、沼部幸博著、新・歯周病をなおそう、砂書房、2008年
女性ホルモンは「宿主因子」に分類され、歯周病のリスク因子の1つです。
月経周期に増加する女性ホルモンであるエストロゲン〈卵胞ホルモン〉、プロゲステロン〈黄体ホルモン〉ともに、ある1つの歯周病原細菌のエサとなり、歯周病原細菌が増殖することがわかっています。
歯周病原細菌は数百種類あると言われていますが、その中でも影響が大きいPrevotella intermediaという種類の細菌の栄養源(エサ)となるのが女性ホルモンというわけです。
日本歯周病学会の「歯周治療のガイドライン2022」にて女性ホルモンの影響について下記の記載があります。
つまり、女性ホルモンの影響により女性は男性と比べて歯周病にかかりやすいということです。ただし、女性ホルモン以外にも歯周病にはたくさんのリスク因子がありますので男性も注意が必要ですが、女性においては女性ホルモンの影響で急激に歯周病が進行することがありますのでより注意が必要です。
また、Prevotella intermediaという細菌は、口臭の原因菌の1つとしても知られています。
卵胞期前期(月経開始後6日)にはエストロゲンが、黄体期後期(月経3日前)にはプロゲステロンが上昇するため、この期間は Prevotella intermedia が増加する時期となります。
言い換えると、この期間は歯周病菌が増殖しやすい期間で、人によっては口臭が気になる時期かもしれません。そのため、この期間の歯周病のプロフェッショナルケアは歯周病原細菌を減少させる効果が他の期間より低く、避けた方が良いでしょう。
プロフェッショナルケアとは、スケーリングやルートプレーニングといった、主に歯科衛生士が行う治療です。歯に付着している歯石(歯周病細菌の塊であるプラークが石灰化して硬くなったもの)は患者自身では除去できないため、歯科衛生士によるケアが必要です。
当院では、ほぼ全ての患者様が定期的は歯周病のメインテナンスを行っております。
当院通院中の患者様は定期的な歯周病のメインテナンスの重要性については理解していただいていると思います。
女性においては女性ホルモンのバランスを意識した歯周病の治療を行っていきます。
分からないことがありましたら、担当医、担当衛生士におたずねください。
次回は、女性ホルモンの妊娠期における歯周病への影響についてお話ししようと思います。
<参考資料>
・第65回春期日本歯周病学会学術大会 歯科衛生士シンポジウム
・ウーマンオーラルヘルス ~女性ホルモンと歯周病~
・日本歯周病学会 「歯周治療のガイドライン2022」