女性ホルモンと歯周病の関係 第二弾
こんにちは。
森岡歯科医院、歯周病専門医の森岡優美です。
今回は「女性ホルモンと歯周病の関係」についての第二弾として、妊娠期および女性ホルモン剤における歯周病の影響についてお話します。
前回もお話しましたが、女性ホルモンには「エストロゲン〈卵胞ホルモン〉」と「プロゲステロン〈黄体ホルモン〉」の2種類があります。妊娠中の女性の心と身体の状態はこれらのホルモンの影響を大きく受けます。
この女性ホルモンを栄養源(エサ)とする歯周病細菌がPrevotella intermediaです。
妊娠中の女性ホルモンは月経周期ピーク時の10倍以上もの女性ホルモンの増加がみられるそ
うです。
そのため、歯周病細菌であるPrevotella intermediaの増殖も、月経中と比べても多く、妊娠期間中の約10か月この状態が継続することになります。それにより、他の歯周病細菌も増加してしまいます。ある論文では、「出産回数が多いほど歯の喪失本数が多い」との結果も存在します。
そのため、妊娠中は歯周病のケアが非常に重要です。特に、妊娠前より歯周病を指摘されたことがある方は、急速に歯周病が進行してしまう可能性が高いですので、注意が必要です。
また、歯周病があると早産、低体重児のリスクが高まるのをご存じでしょうか。
上の図のように、歯周病があると早産や低体重児出産のリスクが上昇します。歯周組織で産生された炎症性物質が血液を介して早期の子宮頸管の熟化や、子宮筋の収縮を起こすためと言われています。
このことからも、妊娠中は歯周病が無い方でも歯周病ならないように、歯科受診を強くお勧めします。また、妊娠前より歯周病を指摘されたことがある方は、悪化しないように歯周病管理を行っていく必要があります。
ただし、妊娠中であればいつでも治療可能なわけではありません。妊娠中の歯周病の治療時期は限られてしまいます。
上の図のように、妊娠初期は胎児の器官形成期であり外部の影響を受けやすく、妊娠後期は外部の影響により早産のリスクが高まります。そのため、いわゆる安定期である妊娠中期に歯周病の治療を行うのが適しています。
以上のことより、妊娠を希望している患者様には歯周病のチェックと歯のクリーニングが必要です。その際、歯周病は無いと言われた方も妊娠中は歯周病に非常になりやすい状態ですので、妊娠中期に一度は健診を行う必要があります。また、妊娠前に歯周病と診断された患者様は、妊娠中も定期的に歯周病が悪化していないかチェックが必要です。その際、悪化が認められれば、妊娠中期により積極的な歯周病の治療を行います。
妊娠期における歯周病管理は非常に重要ですので、ご家族の中に妊娠を考えている、あるいは妊娠中の方がいる場合は歯科受診を勧めましょう。
次に、経口避妊薬および不妊治療により歯周病への影響についてお話します。
経口避妊薬の使用はプロゲステロンの値を上昇させるため、歯周病に影響を与えると考えられます。ある論文によると、「3年間継続して経口避妊薬を服用している人は、中等度~重度の歯周病の人が多く、歯周ポケット中の歯周病細菌の割合が高かった」との報告があります。
また、不妊治療に関してもエストロゲンやプロゲステロンの補充を行うホルモン療法があり、歯周病への影響が考えられます。
上記のような経口避妊薬や不妊治療の開始をきっかけに歯周病が悪化することがありますので、気になることがあれば担当衛生士に相談してください。また、問診表には正確な記載をお願いします。
今回は、妊娠期および女性ホルモン剤の歯周病への影響と対応についてお話しました。
次回は第3弾として、更年期の女性ホルモン減少に伴う歯周病および口腔への影響についてお話したいと思います。
参考資料
・第65回春期日本歯周病学会学術大会 歯科衛生士シンポジウム
ウーマンオーラルヘルス ~女性ホルモンと歯周病~
・Brusca MI et al.J Periodontol 2010;81:1010-1018
・東京医科歯科大学医学部マタニティクラス
・Corbella et al,Odontology 100(2):232-240,2012
・J Periodontol 67:1130-1113,1996
・Am J Obstet Gynecol,196:135,2007